フーリエ級数:第7回:項別微分積分

前回までで\(y=x^2\)のフーリエ級数
\begin{eqnarray}
x^2=\frac{\pi^2}{3}
+
\sum_{n=1}^\infty
\frac{4(-1)^{n}}{n^2}
\cos(nx)\label{701}
\end{eqnarray}
を求めた。ここで次のような願望が出るとする。
\begin{eqnarray}
y=xのフーリエ級数ってなんだろうか?
\end{eqnarray}
$\ref{701}$式を見ると左辺が\(x^2\)なので、微分すれば\(y=2x\)が出てくる。すると\(\ref{701}\)式の両辺を\(x\)で微分すればいいのではないか、という考えが出てくる。これは実際正しい。両辺の微分を実行すれば
\begin{eqnarray}
\frac{d}{dx}x^2&=&\frac{d}{dx}\frac{\pi^2}{3}
+
\frac{d}{dx}\left[\sum_{n=1}^\infty
\frac{4(-1)^{n}}{n^2}
\cos(nx)\right]\\
&\downarrow&\nonumber\\
2x&=&
\sum_{n=1}^\infty
\frac{4(-1)^{n}}{n^2}
\frac{d}{dx}\cos(nx)\\
&=&
\sum_{n=1}^\infty
\frac{4(-1)^{n+1}}{n}
\sin(nx)\\
&\downarrow&\nonumber\\
x&=&
\sum_{n=1}^\infty
\frac{2(-1)^{n+1}}{n}
\sin(nx)
\end{eqnarray}
という結果になる。これが本当に正しいかどうか見るために、定義に従って\(y=x\)をフーリエ級数展開してみよう。周期\(2\pi\)のフーリエ級数の展開係数の公式を再掲すると
\begin{eqnarray}
a_n&=&\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x)\cos\left(nx\right)dx\\
b_n&=&\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x)\sin\left(nx\right)dx
\end{eqnarray}
であったが、\(y=x\)は奇関数なので\(a_n\)は計算するまでもなく0と分かる。従って\(b_n\)を計算すると

\begin{eqnarray}
b_n&=&
\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi x\sin\left(nx\right)dx\\
&=&
\frac{1}{\pi}\left[
\frac{-1}{n}x\cos(nx)+\frac{1}{n^2}\sin(nx)
\right]_{-\pi}^\pi\\
&=& \frac{-2}{n}(-1)^{n}\\
&\downarrow&\nonumber\\
b_n&=&\frac{2}{n}(-1)^{n+1}
\end{eqnarray}

よって、定義どおり厳密に計算した結果は

\begin{eqnarray}
y=x=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\sin(nx)
\end{eqnarray}

になる。これは先程の\(x^2\)のフーリエ級数を微分して得られた結果と完全に一致している。

さて\(x=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\sin(nx)\)という結果が得られたが、この式を更に微分すれば\(y=1\)のフーリエ級数展開が得られると期待できる。しかしこれは叶わない願いであることが分かる。何故か?それは簡単に見ることが出来て、もし\(x=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\sin(nx)\)の両辺を微分すると(微分した結果が正しいと仮定すれば)
\begin{eqnarray}
\frac{d}{dx}x&=&\frac{d}{dx}\left[\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\sin(nx)\right]\\
&\downarrow&\nonumber\\
1&=&
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\frac{d}{dx}\sin(nx)\\
&=&
2\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n+1}\cos(nx)
\end{eqnarray}
を得る。これが何故正しくないかというと、右辺が明らかに収束しないからだ。「級数」というものに馴染みがない者の為に少し述べると、そもそも「級数」というのは級数が収束して初めて「級数」というものが正しく定義される。簡単な例が
\begin{eqnarray}
S=1-1+1-1+1-1+\cdots
\end{eqnarray}
のような無限和で、これは明らかに収束しない。従ってこの無限和に対してwell-definedな値を付ける事は出来ず、その意味でこの級数は定義されない。今得た式は当にこの式と同じ構造になっていて、実際先程得た式
\begin{eqnarray}
1&=&
2\sum_{n=1}^{\infty}(-1)^{n+1}\cos(nx)
\end{eqnarray}
に(x=0)を代入すると、左辺は1なのに、右辺は
\begin{eqnarray}
2(1-1+1-1+1-1+\cdots)
\end{eqnarray}
となり、上述の収束しない無限和(定義できない級数)になっており、視覚的には
\begin{eqnarray}
1=値が定まらないはずの無限和
\end{eqnarray}
となっており、矛盾をきたすことが分かる。つまり
\begin{eqnarray}
x\leftarrow
x^2\leftarrow
x^3\leftarrow
x^4\leftarrow\cdots
\end{eqnarray}
という流れであれば、(和が収束するから)フーリエ級数の両辺を自由に微分して両辺を比較しても良い。しかし、\(x^0\leftarrow x^1\)という流れは先程の理由から単純に両辺微分&比較というわけには行かないのだ。

一般論としてまとめると次の様になる。ある関数\(f(x)\)のフーリエ級数展開\(F(x)\)があった時に、これを微分したも物\(\frac{d}{dx}F(x)\)が無限和として収束してさえいれば

\begin{eqnarray}
\frac{d}{dx}f(x)=\frac{d}{dx}F(x)
\end{eqnarray}

が成り立つ。つまり\(\frac{df}{dx}\)のフーリエ級数は\(\frac{dF}{dx}\)で求まる事になる。

ちなみに両辺積分&比較は(私の知る限り)常に出来る。というか、出来るものと思ってもらっても恐らく物理で扱う範囲では問題ない。では何故積分なら常にしてもいいのか。その理由を見るために\(y=f(x)\)とその原始関数\(y=\int_{0}^{x}f(t)dt\)のフーリエ級数の係数の関係を見てみよう。関数\(f(x)\)のフーリエ係数を\(a_n,b_n\)と小文字で書き、原始関数の方を大文字で書くことにする。さてフーリエ係数を求める公式を再掲すると周期\(2\pi\)で議論する

\begin{eqnarray}
a_n&=&\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x)\cos\left(nx\right)dx\\
b_n&=&\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x)\sin\left(nx\right)dx
\end{eqnarray}

であったが、

\begin{eqnarray}
A_n&=&
\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi F(x)\cos\left(nx\right)dx\\
&=&
\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi
\left[
\int_{0}^{x}f(t)dt
\right]
\cos\left(nx\right)dx\\
(部分積分より)&=&
\frac{1}{\pi}\left[
\left(
\int_0^xf(t)dt
\right)
\frac{\sin(nx)}{n}
\right]_{-\pi}^\pi -\frac{1}{\pi} \frac{1}{n}\int_{-\pi}^\pi f(x)\sin(nx)\\
(第一項は\sin(n\pi)=0より0)&=&
-\frac{1}{n}\left(\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x)\sin(nx)\right)\\
&=&
-\frac{b_n}{n}
\end{eqnarray}
\(B_n\)も同様にして求めると

\begin{eqnarray}
B_n
&=&
\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi
F(x)\sin(nx)\\
&=&
\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi
\left[
\int_{0}^{x}f(t)dt
\right]
\sin\left(nx\right)dx\\
&=&
\frac{1}{\pi}\left[
\left(\int_0^xf(t)dt\right)\frac{-\cos(nx)}{n}
\right]_{-\pi}^\pi + \frac{1}{n}\frac{1}{\pi}\int_{-\pi}^\pi f(x)\cos(nx)dx\\
&=&
\frac{a_n-a_0(-1)^n}{n}
\end{eqnarray}
以上より
\begin{eqnarray}
A_n&=&-\frac{b_n}{n}\\
B_n&=&\frac{a_n-a_0(-1)^n}{n}
\end{eqnarray}


を得る。この結果から直ぐ分かるように、「原始関数のフーリエ係数」は「元の関数のフーリエ係数×\(\frac{1}{n}\)」となっており、\(A_n,B_n\)の収束性の方が常に\(a_n,b_n\)の収束性よりいい。つまり元の関数のフーリエ級数が収束していれば、それを積分した物も収束している事になり、「両辺積分&比較」が正当化される($B_n$に現れる第二項目が気がかりな読者もいるかも知れないが、この項があっても収束にはなんら問題ない)。

しかし実用的には微分ほど積分は使えない可能性がある。というのも積分には常に積分定数が付き纏うのだが、例えば\(y=x\)のフーリエ級数を積分すると
\begin{eqnarray}
x&=&\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\sin(nx)\\
&\downarrow&\nonumber\\
\frac{1}{2}x^2
&=&
C
+
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n}}{n^2}\cos(nx)\\
&\downarrow&\nonumber\\
x^2&=&2C+\sum_{n=1}^{\infty}\frac{4(-1)^{n}}{n^2}\cos(nx)
\end{eqnarray}
となり、以前求めていた\(x^2\)のフーリエ級数に一致するのだが、Cは積分だけからでは決まらず、どうにかして我々が決めなければならず、このCを決まるためには両辺の\(x\)に特定の値を入れ、両辺が等しくなるようにCを決める必要がある。少し手を動かしてみると分かると思うが、結局このCを求めるためには
\begin{eqnarray}
\frac{\pi^2}{6}=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^2}
\end{eqnarray}
という結果を使わなければならない。しかしこれよりも前の回で見てきたように、この\(\frac{\pi^2}{6}=\sum_{n=1}^\infty\frac{1}{n^2}\)という結果は寧ろ\(x^2\)のフーリエ級数から得られたものであって、\(x^2\)のフーリエ級数展開を求める為にこれを用いることは循環論法になってしまう。従って\(x^n\)のような\(x\)の高次のフーリエ級数を低次のフーリエ級数の積分から求めたいとすると、フーリエ級数以外の別の方法で\(\sum_{k=1}^{\infty}\frac{1}{k^n}\)を求めておく必要があり、これを求める位ならば素直に定義に従って計算したほうがよっぽど早いし簡単である。

しかし例外があって\(x^{2n+1}\)のフーリエ級数はそれよりも一つ低次の\(x^{2n}\)のフーリエ級数から、先程の積分定数問題を考えることなく、厳密に求めることが出来る。積分定数はフーリエ係数で言う所の\(a_0\)に対応するが、我々は\(x^{2n+1}\)の奇関数性から\(a_n\)は恒等的に0になることを知っている。つまりこの場合、積分定数は0とすることが出来、先程の問題は気にしなくてよいのだ。実際に\(x^3\)のフーリエ級数展開を\(x^2\)のフーリエ級数を積分することで求めて見よう。
\begin{eqnarray}
t^2&=&\frac{\pi^2}{3}
+
\sum_{n=1}^\infty
\frac{4(-1)^{n}}{n^2}
\cos(nt)\\
&\downarrow&両辺に\int_0^x dtを掛ける\nonumber\\
\frac{1}{3}x^3
&=&
\int_0^x\frac{\pi^2}{3}dt
+
\sum_{n=1}^\infty
\frac{4(-1)^{n}}{n^2}
\int_0^x\cos(nt)dt\\
(上述の理由から積分定数は0)&=&
\frac{\pi^2}{3}x
+
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{4(-1)^{n}}{n^3}
\sin(nx)\\
(y=xのフーリエ級数を第一項に代入)&=&
\frac{\pi^2}{3}
\left(
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{2(-1)^{n+1}}{n}\sin(nx)
\right)
+
\sum_{n=1}^{\infty}\frac{4(-1)^{n}}{n^3}
\sin(nx)\nonumber\\
\\
&=&
\sum_{n=1}^{\infty}
\left(
\frac{2\pi^2(-1)^{n+1}}{3n}
+
\frac{4(-1)^n}{n^3}
\right)\sin(nx)
\end{eqnarray}
よって最終結果は
\begin{eqnarray}
x^3=\sum_{n=1}^{\infty}
\left(
\frac{2\pi^2(-1)^{n+1}}{n}
+
\frac{12(-1)^n}{n^3}
\right)\sin(nx)
\end{eqnarray}
となる。ここでは示さないが、定義どおり計算した結果と厳密に一致する。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です