素粒子標準模型:レプトンセクター:質量項

次の目標は質量項の導入であるが、いつものように場の二次形式で導入するとゲージ対称性が壊れる。そこで湯川項を入れ、対称性を破って質量を導入する。まずヒッグス場、左手型レプトン、右手型レプトンのゲージ量子数を再掲すると
\begin{eqnarray}
H&\to&\left(1,2,\frac{1}{2}\right)\\
L&\to&\left(1,2,-\frac{1}{2}\right)\\
{e}_R&\to&\left(1,1,-1\right) \end{eqnarray}
であるので、ハイパーチャージの加法性からざっくり見てやると\(L^\dagger\times H\times{e}_R\)のように組み合わせると、ちょうどゲージ量子数\((1,1,0)\)のゲージ不変な項が構成できる。ここでエルミート共役を単純に取っただけでは少しまずいので、この考えに基づいてちゃんと考えてみよう。 まず\(L_i\)が\(SU(2)\)の下で
\begin{eqnarray}
L_i^\prime=\exp\left[i\theta^aT^a\right]_{ij}L_j~~~T^a=\frac{1}{2}\sigma^a
\end{eqnarray}
と変換すると、エルミート共役を取ることで
\begin{eqnarray}
(L_i^\prime)^\dagger=\exp\left[-i\theta^aT^{a\ast}\right]_{ij}L_j^\dagger =\exp\left[i\theta^a(-T^{a\ast})\right]_{ij}L_j^\dagger
\end{eqnarray}
となり、\(SU(2)\)の2表現に対する複素表現で変換することが分かる。しかし\(2\)表現の複素表現は2表現と等価なので、2表現に直そう。そのためには恒等式\(\sigma^2(-\sigma^i)^\ast\sigma^2=\sigma^i\)と使えばよく、
\begin{eqnarray}
(i\sigma^2L^\prime)^\dagger_i
&=&
\left[(i\sigma^2)\exp\left(i\theta^a(-T^{a\ast})\right)\right]_{ij}(i\sigma^2L^\dagger)_j\\
&=&\exp\left[i\theta^aT^a\right]_{ij}
(i\sigma^2L^\dagger)_j
\end{eqnarray}
が得られる。これにより2表現に属する場が得られた。この場\(i\sigma^2L^\dagger\)は\(L\)のエルミート共役を取っているので、ハイパーチャージが反転して量子数
\begin{eqnarray}
L^c\equiv i\sigma^2L^\dagger=\begin{pmatrix}
1,2,\frac{1}{2}
\end{pmatrix}
\end{eqnarray}
の場が得られる。ここまで来ると話は簡単である。まず(右手型レプトンは\(SU(2)\)シングレットなので無視して)ヒッグス\(H\)と左手型レプトン\(i\sigma^2L^\dagger\)が\(SU(2)\)ダブレットなので、これらから\(SU(2)\)シングレットを作らなければならない。ここで\(SU(2)\)ダブレットは角運動量代数のスピン1/2と同じ構造を持っている。角運動量代数を思い出すと、スピン\(\frac{1}{2}\)を2つ掛けたものは、スピン1状態とスピン0状態に分解できたことを思い出そう。スピン1/2に属する2つの場\(\psi_1=\begin{pmatrix}
\psi^1_1\\
\psi^2_1
\end{pmatrix}\)と\(\psi_2\begin{pmatrix}
\psi^1_2\\
\psi^2_2
\end{pmatrix}\)があった時、これらの積を考えると
\begin{eqnarray}\psi_1^a\psi_2^a
\frac{1}{2}\left(
\psi^a_1\psi^b_2+\psi^a_2\psi^b_1
\right)
+
\frac{1}{2}\left(
\psi^a_1\psi^b_2-\psi^a_2\psi^b_1
\right)
\end{eqnarray}
と分解でき、この第二項がスピン0状態、すなわち\(SU(2)\)シングレットになっている。この第二項は
\begin{eqnarray}
\psi^a_1\psi^b_2-\psi^a_2\psi^b_1=
\epsilon^{ij}\psi^a_i\psi^b_j
\end{eqnarray}
と書けるので、これを参考にすると
\begin{eqnarray}
\epsilon^{ij}{L}^c_iH_j
\end{eqnarray}
が\(SU(2)\)シングレットになっていると分かるだろう。あとはここに\(\bar{e}_R\)を組み込んで\(U(1)\)スカラーにしなければならない。しかし\(U(1)\)ハイパーチャージは加法的なので、これは単に掛ければよく

\begin{eqnarray} (\epsilon^{ij}{L}^c_iH_j){e}_R \end{eqnarray}

とすればいい。これは全てのゲージ対称性に関してシングレットになっており、欲しかった項である。またローレンツ変換に対してもローレンツスカラーになっているので、これが最終的な結果である。なお(c)の記号があると見づらいので、等式変形しておこう。

\begin{eqnarray}
(\epsilon^{ij}{L}^c_iH_j){e}_R&=& \epsilon^{ij}(i\sigma^2{ik}L_k^\dagger)H_je_R\\
&=&
(i\sigma^2)^{ij}(i\sigma^2_{ik}L_k^\dagger)H_je_R\\
&=&L^\dagger_iH_ie_R\\
&=&\bar{L}_iH_ie_R
\end{eqnarray}
こちらのほうが見やすいだろう。こちらの表式を採用しよう。これに適当な係数を掛ければラグランジアンの候補になるのだが、取り敢えず簡単な形のまま調べてみよう。真空を破ってヒッグスが真空期待値を得たとすると、
\begin{eqnarray}
L^\dagger_iH_ie_R
&=&
H_iL_i^\dagger{e}_R\\
&\propto&
(0,v+h)\begin{pmatrix}
\nu^\dagger\\
e_L^\dagger
\end{pmatrix}{e}_R\\
&=&
(v+h)e_L^\dagger{e}_R\\
(真空期待値の項だけ拾うと)&\to&
ve_L^\dagger{e}_R
\end{eqnarray}
ラグランジアンにはエルミート共役の項も含まれるので、上記の項のエルミート共役がセットになっている。つまりラグランジアンには
\begin{eqnarray}
ve_L^\dagger{e}_R+(ve_L^\dagger{e}_R)^\dagger
\end{eqnarray}
の形で現れる。第二項を計算すると\(v{e}_R^\dagger e_L\)になるので、合わせると
\begin{eqnarray}ve_L^\dagger\bar{e}_R+(ve_L^\dagger\bar{e}_R)^\dagger
ve_L^\dagger{e}R+v{e}_R^\dagger e_L \end{eqnarray}

を得る。ここで先程のディラックスピノル

\begin{eqnarray} \psi_e\equiv\begin{pmatrix} e_L\\
{e}_R \end{pmatrix} \end{eqnarray}

を用いると、上記の項は以下のようにディラック質量項として書ける。

\begin{eqnarray} v\bar{\psi}_e\psi_e \end{eqnarray}

このようにして電子の質量項が自発的対称性の破れを通して得られる。以上を纏めると電子の質量項は

\begin{eqnarray} \mathcal{L}_{electron-mass}=-\left(y^l\bar{L}_iH_ie_R+c.c\right)
\end{eqnarray}

となる。

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