クーロンゲージによる電気力学

ハミルトニアンを構成して電磁場を量子化しよう.

これはゲージ不変性があることからいつものように簡単にはいかない.自由度がありすぎるのである.たとえばラグランジアンが

\begin{align}{\mathcal{L}}&=-\frac{1}{4}F^{\mu\nu}F_{\mu\nu}+J^{\mu}A_{\mu} \tag{1}\\ &=-\frac{1}{2}\partial ^{\mu}A^{\nu}\partial _{\mu}A_{\nu}+\frac{1}{2}\partial ^{\mu}A^{\nu}\partial _{\nu}A_{\mu}+J^{\mu}A_{\mu}\tag{2}\end{align}

で与えられるとする.ここには,\(A^0\)の時間微分は含まれていない.これにより,正準共役運動量は力学的ではないのである.(もっというと正準共役運動量の時間成分が0となり,これは一次拘束条件になる.)

これを解決するためにゲージ固定をしよう.\(A^{\mu}(x)\)が満たす条件を要求するゲージ条件を課すことにより,これを行う.同じ\(F^{\mu\nu}\)与えるような\(A^{\mu}(x)\)がただ1つとなるような条件が良い条件である.

その1つのとして \(n^{\nu}A_{\mu}(x)=0\) を課すこともある.ここで,\(n^{\mu}\)は4次元定数ベクトルである.これらの条件は

\begin{align} &nが spacelike (n^2>0) のときaxial\ gauge\\& nが lightlike (n^2>0) のとき lightcone\ gauge\\& nが timelike (n^2>0) のとき temporal \ gauge \end{align}

と呼ばれる.

他には\(\partial^{\mu}A_{\mu}(x)=0\)を課すローレンツゲージなどもある.これについては62章で議論する.

この章ではクーロンゲージ(Coulomb gauge, radiation gauge, transverse gaugeなどともいわれる)を用いることにする.クーロンゲージの条件は

$$\nabla\cdot {\bf{A}}(x)=0\tag{3}$$

である.この条件は(4)式のように\(A_i(x)\)に射影演算子を作用することで自動的に成り立つ.

$$A_i(x)\to \left(\delta_{ij}-\frac{\nabla_i\nabla_j}{\nabla^2}\right)A_j(x)\tag{4}$$

ここで,(4)式の右辺はフーリエ変換で\(A_i(x)\)を\(\tilde{A}_i(k)\)にして行列\(\delta_{ij}-k_ik_j/{\bf{k}}^2\)をかけてから逆フーリエ変換することで定義される.ここから,\(A_i\)と書いたら(4)式の右辺の意味であるとする.

ラグランジアンをクーロンゲージのもとでスカラー,ベクトルポテンシャル\(\varphi=A^0,A_i\)を用いて表そう.(2)式から出発すると

\begin{align} {\mathcal{L}}&=\frac{1}{2}\dot{A}_i\dot{A}i-\frac{1}{2}\nabla_jA_i\nabla_jA_i+J_iA_i\\ &=\frac{1}{2}\nabla_iA_j\nabla_jA_i+\dot{A}_i\nabla_i\varphi\\ &=\frac{1}{2}\nabla_i\varphi\nabla_i\varphi-\rho\varphi\tag{5}\end{align}

となる.(5)式の二行目は部分積分を行って微分の順序を変えるとクーロンゲージにより消える.

\(\varphi\)についての変分による方程式を考えるとこれはポアソン方程式

$$-\nabla^2\varphi=\rho\tag{6}$$

となる.無限遠で\(\varphi,\rho\)が0になるという境界条件の下で解くと解は

$$\varphi({\bf{x}},t)=\int d^3y \frac{\rho({\bf{y}},t)}{4\pi|{\bf{x-y}}|}\tag{7}$$

となる.

(7)式は\(\varphi({\bf{x}},t)\)は同時刻の電荷密度により与えられ,力学的でないことを表している.(7)式をラグランジアンに代入し,部分積分\(\nabla_i\varphi\nabla_i\varphi\to -\varphi\nabla^2\varphi=\varphi\rho\)を用いて計算すると

$${\mathcal{L}}=\frac{1}{2}\dot{A}_i\dot{A}_i-\frac{1}{2}\nabla_jA_i\nabla_jA_i+J_iA_i+{\mathcal{L}}_{coul}\tag{8}$$

となる.ここで,

$${\mathcal{L}}_{coul}=-\frac{1}{2}\int d^3y \frac{\rho({\bf{x}},t)\rho({\bf{y}},t)}{4\pi |{\bf{x-y}}|}\tag{9}$$

である.

自由場(\(J_i=0\))を考えると\(A_i\)の変分から得られる方程式は

$$\partial^2A_i(x)=0\tag{10*}$$

である.よって,\({\bf{A}}\)が実でクーロンゲージより一般解は

$${\bf{A}}(x)=\sum_{\lambda=\pm}\int\tilde{dk}\left[{\boldsymbol{\epsilon}}_{\lambda}^*({\bf{k}})a_{\lambda}({\bf{k}})e^{ikx}+{\boldsymbol{\epsilon}}_{\lambda}({\bf{k}})a_{\lambda}^{\dagger}({\bf{k}})e^{-ikx}\right]\tag{11}$$

と書ける.ここで,\(k^0=\omega=|{\bf{k}}|,\tilde{dk}=d^3k/(2\pi)^32\omega,{\boldsymbol{\epsilon}}\)は偏極ベクトルである.クーロンゲージより,\({\boldsymbol{\epsilon}}_{\pm}\)は\({\bf{k}}\)と垂直な面の基底であるが左右の円偏光に対応するように取ろう.\({\bf{k}}=(0,0,k)\)であれば

\begin{align} {\boldsymbol{\epsilon}}_+({\bf{k}})&=\frac{1}{\sqrt{2}}(1,-i,0), \\
{\boldsymbol{\epsilon}}_-({\bf{k}})&=\frac{1}{\sqrt{2}}(1,i,0)\tag{12}\end{align}

である.より一般には偏極ベクトルは次の三つの条件を満たすものである.

\begin{align} {\bf{k}}\cdot {\boldsymbol{\epsilon}}_{\lambda}({\bf{k}})&=0\tag{13}
\\ {\boldsymbol{\epsilon}}_{\lambda^{\prime}}\cdot{\boldsymbol{\epsilon}}_{\lambda}^*({\bf{k}})&=\delta_{\lambda^{\prime}\lambda}\tag{14}\\ \sum_{\lambda=\pm}\epsilon_{i\lambda}^*({\bf{k}})\epsilon_{j\lambda}({\bf{k}})&=\delta_{ij}-\frac{k_ik_j}{{\bf{k}}^2}\tag{15} \end{align}

量子化したら係数\(a_{\lambda}({\bf{k}}),a_{\lambda}^{\dagger}({\bf{k}})\)のダガーはエルミート共役を意味する.

3章でスカラー場について行った計算と同様の計算をすると(11)式より,

\begin{align} a_{\lambda}({\bf{k}})&=+i{\boldsymbol{\epsilon}}_{\lambda}({\bf{k}})\cdot \int d^3x\ e^{-ikx}\overleftrightarrow{\partial}_0{\bf{A}}(x)\tag{16}\\
a^{\dagger}_{\lambda}({\bf{k}})&=-i{\boldsymbol{\epsilon}}^*_{\lambda}({\bf{k}})\cdot \int d^3x\ e^{+ikx}\overleftrightarrow{\partial}_0{\bf{A}}(x) \tag{17}\end{align}

を得る.ここで,\(f\overleftrightarrow{\partial}_{\mu}g=f(\partial_{\mu}g)-(\partial_{\mu}f)g\)である.

準備が整ったので量子化していこう.まず,\(A_i\)の正準共役運動量は

$$\Pi_i=\frac{\partial{\mathcal{L}}}{\partial\dot{A}_i}=\dot{A}_i\tag{18}$$

である.\(\nabla_iA_i=0\)なので\(\nabla_i\Pi=0\)に注意するとハミルトニアン密度は

\begin{align} {\mathcal{H}}&=\Pi_i\dot{A}_i-{\mathcal{L}}\\ &=\frac{1}{2}\Pi_i\Pi_i+\frac{1}{2}\nabla_jA_i\nabla_jA_i-J_iA_i+{\mathcal{H}}_{coul}\tag{19}\end{align}

となる.ここで,\({\mathcal{H}}_{coul}=-{\mathcal{L}}_{coul}\)である.

正準交換関係を課そう.クーロンゲージを取っているので(4)式より

\begin{align} [A_i({\bf{x}},t),\Pi_j({\bf{y}},t)]&= i\left(\delta_{ij}-\frac{\nabla_i\nabla_j}{\nabla^2}\right)\delta^3({\bf{x-y}})\\ &= i\left(\delta_{ij}-\frac{\nabla_i\nabla_j}{\nabla^2}\right)\int \frac{d^3k}{(2\pi)^3}e^{i{\bf{k}}\cdot({\bf{x-y}})}\\ &=i\int\frac{d^3k}{(2\pi)^3}e^{i{\bf{k}}\cdot({\bf{x-y}})}\left(\delta_{ij}-\frac{k_ik_j}{{\bf{k}}^2}\right)\tag{20}\end{align}

とする.(ここではかなり適当な議論をしている.まじめにやるならば拘束条件を正しく扱ってディラック括弧を計算する必要がある.)

(20)式と\([A_i,A_j]=[\Pi_i,\Pi_j]=0\)を用いると\(a_{\lambda}({\bf{k}}),a_{\lambda}({\bf{k}})\)の交換関係も計算することができる.結果は次のようになる.

\begin{align} [a_{\lambda}({\bf{k}}),a_{\lambda^{\prime}}({\bf{k}}^{\prime})]&=0 \tag{21}\\ [a^{\dagger}_{\lambda}({\bf{k}}),a^{\dagger}_{\lambda^{\prime}}({\bf{k}}^{\prime})]&=0 \tag{22}\\ [a_{\lambda}({\bf{k}}),a^{\dagger}_{\lambda^{\prime}}({\bf{k}}^{\prime})]&=(2\pi)^32\omega\delta^3({\bf{k^{\prime}-k}})\delta_{\lambda\lambda^{\prime}} \tag{23}\end{align}

\(a_{\lambda}^{\dagger}({\bf{k}}),a_{\lambda}({\bf{k}})\)はそれぞれ定義されたヘリシティを持つフォトンを生成,消滅させる演算子だと解釈する.ここで,右円偏光がヘリシティ1で左円偏光がヘリシティ-1の状態を表す.

これらの演算子を用いてハミルトニアンを書くと

$$H=\sum_{\lambda=\pm}\int \tilde{dk}\ \omega a_{\lambda}^{\dagger}({\bf{k}})a_{\lambda}({\bf{k}})+2\epsilon_0V-\int d^3x{\bf{J}}(x)\cdot {\bf{A}}(x)+H_{could}\tag{24}$$

となる.ここで,\(\epsilon_0=\frac{1}{2}(2\pi)^{-3}\int d^3k\ \omega\) で単位体積あたりのゼロ点エネルギーである.(3章とほとんど同様の計算である.)さらにクーロンハミルトニアンは

$$H_{could}=\frac{1}{2}\int d^3xd^3y\ \frac{\rho({\bf{x}},t)\rho({\bf{y}},t)}{4\pi|{\bf{x-y}}|}\tag{25}$$

である.

計算の中で\(t=0\)として漸近場で(11)式を用いた.これが許されるのは\(H\)が時間不変だからである.

電磁力学のハミルトニアンのこの表式はしばしば非相対論的なシュレディンガー方程式での原子の遷移振幅の出発点になる.(もしかしたら学部の量子力学の範囲で扱ったことがある人もいるかもしれない.)クーロン相互作用は\({\bf{J\cdot A}}\)に表れていて,定義された偏極を持つフォトンの生成消滅を可能にしている.

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