69.非可換ゲージ理論

\(N\)個のスカラー場もしくはスピノル場\(\phi_i(x)\)が\(SU(N)\)もしくは\(SO(N)\)対称性

$$\phi_i(x)\to U_{ij}\phi_j(x)\tag{1}$$

の下で不変であるようなラグランジアンを考えよう.ここで,\(U_{ij}\)は\(SU(N)\)を考えている場合は\(N\times N\)のユニタリ行列,\(SO(N)\)の場合は\(N\times N\)の直交行列である.\(U\)は時空点によらないのでグローバル対称性である.

58章で見たように量子電気力学は局所的な\(U(1)\)対称性を持っていた.

$$\phi(x)\to U(x)\phi(x)\tag{2}$$

ここで,\(U(x)=\exp[-ie\Gamma(x)]\)は時空点に依存する\(1\times 1\)のユニタリ行列と思うことができる.\(U(1)\)ゲージ場\(A_{\mu}\)があり,\(\partial_{\mu}\)を共変微分\(D_{\mu}=\partial_{\mu}-ieA_{\mu}\)に変えたら,ラグランジアンは(2)式の対称性を持つ.(2)式の変換の下で共変微分は

$$D_{\mu}\to U(x)D_{\mu}U^{\dagger}(x)\tag{3}$$

と変換する.この定義により,スカラー場の運動項\(-(D_{\mu}\varphi)^{\dagger}D^{\mu}\varphi\)やフェルミオンの運動項\(i\overline{\Psi}\cancel{D}\Psi\)も質量項のように不変である.

(3)のように変換するとゲージ場は

$$A_{\mu}\to U(x)A_{\mu}U^{\dagger}(x)+\frac{i}{e}U(x)\partial_{\mu}U^{\dagger}(x)\tag{4}$$

のように変換する.

\(U(x)=\exp[-ie\Gamma(x)]\)の場合を考えると(4)式は

$$A_{\mu}(x)\to A_{\mu}(x)-\partial_{\mu}\Gamma(x)\tag{5}$$

である.(これは54章ですでに出てきた.)

今,\(U(1)\)ゲージ理論は\(SU(N),SO(N)\)ゲージ理論に簡単に拡張できる.具体的には\(SU(N)\)を考えよう.24章を思い出すと微小な\(SU(N)\)変換は

$$U_{jk}(x)=\delta_{jk}-ig\theta^a(x)(T^a)_{jk}+O(\theta^2)\tag{6}$$

と書ける.ここで,のちの便利のためにカップリングコンスタント\(g\)を入れた.\(j,k\)は\(1\sim N\)を走り,添え字\(a\)は\(1\sim N^2-1\)を走り,生成子行列\(T^a\)はエルミートトレースレスである.(これらの性質は\(U\)の特殊ユニタリ性からすぐにわかる.)生成子行列の交換関係が

$$[T^a,T^b]=if^{abc}T^c\tag{7}$$

となるとする.ここで,実数\(f^{abc}\)は群の構造定数と呼ばれる.\(f^{abc}\)が\(0\)でなければ群は非可換である.

さらに生成子行列が次のように規格化条件を満たすとすることができる.

$${\mathrm{Tr}}{T^aT^b}=\frac{1}{2}\delta^{ab}\tag{8}$$

これはコンパクトリー代数の定義になる.さらにこのとき,構造定数\(f^{abc}\)は完全反対称になる.\(SU(2)\)においては\(T^a=\frac{1}{2}\sigma^a\)とできる.ここで,\(\sigma^a\)はパウリ行列であり,\(f^{abc}=\epsilon^{abc}\)である.

今,\(SU(N)\)ゲージ場\(A_{\mu}(x)\)をエルミートトレースレスの\(N\times N\)行列でゲージ変換の下で

$$A_{\mu}(x)\to U(x)A_{\mu}(x)U^{\dagger}(x)+\frac{i}{g}U(x)\partial_{\mu}U^{\dagger}(x)\tag{9}$$

と変換するものと定義する.これは(4)式と同じだが,\(U(x)\)は特殊ユニタリ行列で\(A_{\mu}(x)\)がエルミートトレースレスの行列という違いがある.\(U(x)\)は生成子行列を用いて

$$U(x)=\exp[-ig\Gamma^a(x)T^a]\tag{10}$$

と書ける.ここで,\(\Gamma^a(x)\)は実パラメーターであり,微小ではない.

共変微分は

$$D_{\mu}=\partial_{\mu}-igA_{\mu}(x)\tag{11}$$

である.ここで,\(\partial_{\mu}\)は\(N\times N\)の単位行列がかかっている.\(N\)個の場\(\phi_i(x)\)に共変微分は正確には次のように作用する:

$$(D_{\mu}\phi)_j(x)=\partial_{\mu}\phi_j(x)-igA_{\mu}(x)_{jk}\phi_k(x)\tag{12}$$

ここで,\(k\)について和を取っている.大域的な\(SU(N)\)対称性を持つようなラグランジアンにおいて普通の微分を共変微分に置き換えるとラグランジアンは\(SU(N)\)ゲージ対称性を持つ.

次に\(A_{\mu}(x)\)の運動項が必要である.field strength を次のように定義しよう.

\begin{align} F_{\mu\nu}(x)&\equiv \frac{i}{g}[D_{\mu},D_{\nu}]\tag{13}\\ &=\partial_{\mu}A_{\nu}-\partial_{\nu}A_{\mu}-ig[A_{\mu},A_{\nu}]\tag{14}\end{align}

\(A_{\mu}\)は行列になったので,(14)式の最終項は消えない.(13)式の定義と(3)式の変換性より,field strengthは

$$F_{\mu\nu}(x)\to U(x)F_{\mu\nu}(x)U^{\dagger}(x)\tag{15}$$

のように変換する.

したがって,

$${\mathcal{L}}_{\mathrm{kin}}=-\frac{1}{2}{\mathrm{Tr}}(F^{\mu\nu}F_{\mu\nu})\tag{16}$$

はゲージ不変になる.(トレースの性質で回転させることで\(U(x)\)を消去できる.)これが\(SU(N)\)ゲージ場の運動項になる.(\(U(1)\)のときとは違い field strength 自身はゲージ不変ではないことに注意しよう.)

\(A_{\mu}(x)\)はエルミートトレースレスなので生成子行列で展開できる:

$$A_{\mu}(x)=A_{\mu}^a(x)T^a\tag{17}$$

そして,(8)式を使って係数を取り出すと

$$A_{\mu}^a(x)=2{\mathrm{Tr}}\ A_{\mu}(x)T^a\tag{18}$$

となる.同様に field strength も展開し,係数を取り出す:

\begin{align} F_{\mu\nu}(x)&=F_{\mu\nu}^aT^a\tag{19}\\ F_{\mu\nu}^a(x)&=2{\mathrm{Tr}}\ F_{\mu\nu}T^a\tag{20}\end{align}

(14)式で(17),(19)式を用いると

\begin{align} F_{\mu\nu}^cT^c&=(\partial_{\mu}A_{\nu}^c-\partial_{\nu}A_{\mu}^c)T^c-igA_{\mu}^aA_{\nu}^b[T^a,T^b]\\ &=(\partial_{\mu}A_{\nu}^c-\partial_{\nu}A_{\mu}^c+gf^{abc}A_{\mu}^aA_{\nu}^b)T^c\tag{21}\end{align}

となる.よって,(8)式を用いると係数を取り出せるので,

$$F_{\mu\nu}^c=\partial_{\mu}A_{\nu}^c-\partial_{\nu}A_{\mu}^c+gf^{abc}A_{\mu}^aA_{\nu}^b\tag{22}$$

の関係式を得る.また,(19)式を(16)式に代入すると

\begin{align} {\mathcal{L}}_{{\mathrm{kin}}}&=-\frac{1}{2}{\mathrm{Tr}}(F_{\mu\nu}^aF^{c\mu\nu}T^aT^c)\\ &=-\frac{1}{2}(F_{\mu\nu}^aF^{c\mu\nu }\frac{\delta^{ac}}{2})\\ &=-\frac{1}{4}F^{c\mu\nu}F^c_{\mu\nu}\tag{23}\end{align}

となる.(22)式から\({\mathcal{L}}_{{\mathrm{kin}}}\)はゲージ場の相互作用を含んでいるとわかる.このような\(f^{abc}\)が\(0\)でないような理論を非可換ゲージ理論もしくは,Yang-Mills 理論という.

\(SO(N)\)については\(SU(N)\)からユニタリ性を直交性に変え,トレースレスを反対称に変えればよい.また,コンパクト非可換ゲージ理論の他のクラスとして\(Sp(2N)\)がある.他には5つのコンパクトな例外群として,\(G(2),F(4),E(6),E(7),E(8)\)などがある.ここで,コンパクトとは\({\mathrm{Tr}}(T^aT^b)\)の固有値がすべて正であることをいう.非可換ゲージ理論ではコンパクト群を考える.

特殊な例として,quantum chromodynamics (略して QCD )を考えよう.この理論では\(SU(3)\)対称性を持つ.いくつかのDirac 場はクォークに対応しており,各クォークは三つのカラーを持っている.(このカラーが\(SU(3)\)の添字に対応している.もちろん,本当にクォークに色がついているわけではない.)また,6つのフレーバーがあり,up, down, strange, charm, bottom (or beauty), top (or truth) と名前がついている.したがって, Dirac 場\(\Psi_{iI}\)において,\(i\)はカラー添字,\(I\)はフレーバー添字を表している.そのラグランジアンは

$${\mathcal{L}}=i\overline{\Psi}_{iI}\cacel{D}_{ij}\Psi_{jI}-m_I\overline{\Psi}_I\Psi_I-\frac{1}{2}{\mathrm{Tr}}(F^{\mu\nu}F_{\mu\nu})\tag{24}$$

である.ここで,すべての添字について和を取る.異なるフレーバーのクォークは異なる質量を持つ.up や down クォークは数 \(MeV\) 程度であり,top クォークは\(178GeV\)もある.また,\(u,c,t\)クォークは電荷\(+\frac{2}{3}|e|\),\(d,s,b\)クォークは電荷\(-\frac{1}{3}|e|\)を持つ.ここで,電磁場の適切なカップリングを省略している.(24)式で共変微分は

$$(D_{\mu})_{ij}=\delta_{ij}\partial_{\mu}-igA_{\mu}^aT_{ij}^a\tag{25}$$

である.ここで,\(a\)は\(1\sim 8\)を走り,\(A_{\mu}^a\)は質量\(0\)のスピン\(1\)の粒子グルーオンを表している.

一般の非可換ゲージ理論ではスカラー場やスピノル場で群の異なる表現を考えるかもしれない.コンパクトな非可換ゲージ群の表現とは有限次元エルミート行列\(T_R^a\)の集合のことをいう.ここで,\(R\)は表現の名前を表す部分で添字ではない.また,これらは表現によらず,生成子行列\(T^a\)と同じ交換関係を持つ.例えば,\(D(R)\times D(R)\)行列の表現であれば,\(\phi(x)\)は\(D(R)\)個の成分を持ち,共変微分\(D_{\mu}=\partial_{\mu}-igA_{\mu}^aT_R^a\)は\(D(R)\times D(R)\)行列を意味する.ゲージ変換では,\(\phi(x)\to U_R(x)\phi(x)\)のように変換する.ここで,\(U_R(x)\)は(10)式の\(T^a\)を\(T^a_R\)に置き換えたものである.表現とは独立に(9)式のように変換すれば理論はゲージ不変になる.(problem 69.1)

表現論について多くを知る必要はないが次章で役に立つ事実を述べることにする.

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