70.群の表現

コンパクトな非可換群で構造定数が\(f^{abc}\)のものを考えよう.この群の表現とは生成子行列\(T^a\)と同じ交換関係を満たすような\(D(R)\times D(R)\)のトレースレスエルミート行列\(T^a_R\)のことである.

$$[T_R^a,T_R^b]=if^{abc}T_R^c\tag{1}$$

ここで,\(R\)は表現の名前を表す部分であり,添字ではない.数\(D(R)\)を表現の次元という.また,元の行列\(T^a\)を基本表現もしくは定義表現という.

(1)式の交換関係の複素共役を取ろう.構造定数は実数なので,\(-(T^a_R)^*\)も全く同じ交換関係を満たすとわかる:

$$[-(T_R^a)^*,-(T_R^b)^*]=-if^{abc}(T_R^c)^*=if^{abc}(-T_R^c)$$

よって,\(-(T^a_R)^*\)は違う表現であるように思えるが一般にはそうではない.もし,\(-(T_R^a)^*=T_R^a\)もしくはユニタリ変換\(T_R^a\to U^{-1}T_R^aU\)で変換した先で\(-(T_R^a)^*=T_R^a\)が成り立つときは新しい表現は得られない.このような場合の表現を実表現という.また,このようなユニタリ表現は存在しないがユニタリ行列\(V\not =I\)があってすべての\(a\)で\(-(T_R^a)^*=V^{-1}T_R^aV\)が成り立つとき,\(R\)は擬実表現という.このようなユニタリ行列すらない場合は\(R\)は複素表現という.このような場合,新たに得られる表現を複素共役表現\(\overline{R}\)と表すことにする:

$$T_{\overline{R}}^a=-(T_R^a)^*\tag{2}$$

表現が複素であることを示すには最低一つの生成子行列\(T_R^a\)(もしくはそれらの実線形結合)がプラスマイナスペアでない固有値を持つことを言えばよい.例えば,\(N\ge 3\)での\(SU(N)\)の基本表現はこれが言える.また,\(SU(2)\)の基本表現は擬実表現である.このことは次のように示せる..

まず,この表現では生成子が\(\frac{1}{2}\sigma^a\)であるが,\(-(\frac{1}{2}\sigma^a)^*\not=\frac{1}{2}\sigma^a\)である.しかし,\(V=\sigma_2\)において,\(-(\frac{1}{2}\sigma^a)^*=V^{-1}\left(\frac{1}{2}\sigma^a\right)V\)が成り立つ.

\(SO(N)\)の基本表現は実である.これは生成子行列が反対称であり,反対称なエルミート行列は複素共役で元の行列にマイナスをつけたものになるからである.

コンパクトな非可換群の重要な表現に随伴表現\(A\)がある.これは

$$(T_A^a)^{bc}=-if^{abc}\tag{3}$$

で与えられるものである.\(f^{abc}\)は実数であり,完全反対称なので,\(T^a_A\)はエルミートかつ(2)式を満たす.つまり,随伴表現は実である.さらに随伴表現の次元\(D(A)\)は群の生成子の個数と一致する.この数は群の次元と呼ばれる.

随伴表現が交換関係を満たすことを示そう.そのためにヤコビ恒等式

$$f^{abd}f^{dce}+f^{bcd}f^{dae}+f^{cad}f^{dbe}=0\tag{4}$$

を用いよう.ヤコビ恒等式を示すには

$${\mathrm{Tr}}\ T^e\left([[T^a,T^b],T^c]+[[T^b,T^c],T^a]+[[T^c,T^a],T^b]\right)=0\tag{5}$$

を用いればよい.(5)式が成り立つことは左辺の交換関係を書き下せばすぐにわかる.(5)式で(1)式を用いて展開し,

$${\mathrm{Tr}}(T^aT^b)=\frac{1}{2}\delta^{ab}\tag{6}$$

を用いると(4)式を得ることができる.

さらに(4)式を次のように変形しよう.

$$(-if^{abd})(-if^{cde})-(-if^{cbd})(-if^{ade})=if^{acd}(-if^{dbe})\tag{7}$$

さらに(3)式を用いて変形すると

$$(T_A^a)^{bd}(T_A^c)^{de}-(T_A^c)^{bd}(T_A^a)^{de}=if^{acd}(T_A^d)^{be}\tag{8}$$

となり,随伴表現がちゃんと表現を成していることがわかる.

表現を特徴づける二つの便利な数 index \(T(R)\)と quadratic Casimir \(C(R)\) を導入しよう. index は

$${\mathrm{Tr}}(T_R^aT_R^b)=T(R)\delta^{ab}\tag{9}$$

で定義される.

さらに problem 69.2 より行列\(T_R^aT_R^a\)はすべての生成子と交換する.シューアの補題を用いるとこれは単位行列の定数倍になる.この値を quadratic Casimir \(C(R)\)と定義する.この定義で

$$T(R)D(A)=C(R)D(R)\tag{10}$$

を満たすことが簡単にわかる.

慣習的に使う生成子を用いると\(SU(N)\)の基本表現では\(T(N)=\frac{1}{2}\),\(SO(N)\)の基本表現では\(T(N)=2\)である.さらに problem 70.2 において\(SU(N)\)の随伴表現では\(T(A)=N\),problem 70.3 において\(SO(N)\)の随伴表現では\(T(A)=2N-4\)であることを示す.

さらに各\(a\)に対して,\(T_R^a\)が同じ不変部分空間を持つとき,その表現は可約という.(これはユニタリ変換\(T_R^a\to U^{-1}T_R^aU\)で同じ形にブロック対角化できるともいえる.)可約でないとき既約という.例えば,可約表現\(R\)が二つの既約表現\(R_1,R_2\)の直和\(R=R_1\oplus R_2\)でかけている場合を考えよう.このとき

\begin{align} D(R_1\oplus R_2)&=D(R_1)+D(R_2),\tag{11}\\ T(R_1\oplus R_2)&=T(R_1)+T(R_2)\tag{12}\end{align}

が成り立つ.

二つの群の表現の添字を持つ場\(\varphi_{iI}(X)\)を考えよう.ここで,\(i\)は表現\(R_1\),\(I\)は表現\(R_2\)に対応した添字である.この場は直積表現\(R_1\oplus R_2\)で変換する.この表現の生成子行列は

$$(T_{R_1\otimes R_2}^a)_{iI,jJ}=(T_{R_1}^a)_{ij}\delta_{IJ}+\delta_{ij}(T_{R_2}^a)_{IJ}\tag{13}$$

である.ここで,\(i,I\)は列添字で\(j,J\)は行添字である.

\begin{align} D(R_1\otimes R_2)&=D(R_1)D(R_2)\tag{14}\\ T(R_1\otimes R_2)&= T(R_1)D(R_2)+D(R_1)T(R_2)\tag{15}\end{align}

(15)式を得るために生成子行列がトレースレスであることを用いた:\((T_R^a)_{ii}=0\)

複素表現の添字として次のようなものを考えよう.

複素表現\(R\)の場\(\varphi\)を考える.この場は下付き添字を用いて,\(\varphi_i\ (i=1,2,\dots,D(R))\)で表す.エルミート共役により,\(R\)は\(\overline{R}\)に変わるが,このときは上付き添字を用いることにする.

$$(\varphi_i)^{\dagger}=\varphi^{\dagger i}\tag{16}$$

つまり,下付き添字は表現\(R\)に対応し,上付き添字は表現\(\overline{R}\)に対応する.そして,上付き添字と下付き添字で縮約を取る.\(R\)の生成子行列は最初の添字を下付きで,二つ目の添字を上付きで書くことにする:\((T_R^a)_i^{\ \ j}\).そして,\(\varphi_i\)の微小変換は

\begin{align} \varphi_i&\to (1-i\theta^aT_R^a)_i^{\ \ j}\varphi_j\\ &=\varphi_i-i\theta^a(T_R^a)_i^{\ \ j}\varphi_j\tag{17}\end{align}

である.\(\overline{R}\)の生成子行列は

$$(T^a_{\overline{R}})^i_{\ \ j}=-(T_R^a)_j^{\ \ i}\tag{18}$$

である.ここで,生成子行列はエルミートだから複素共役とマイナス転置を置き換えた.

さらに\(\varphi^{\dagger i}\)の微小変換は

\begin{align} \varphi^{\dagger i}&\to (1-i\theta^aT_{\overline{R}}^a)^i_{\ \ j}\varphi^{\dagger j}\\ &=\varphi^{\dagger i}-i\theta^a(T_{\overline{R}}^a)^i_{\ \ j}\varphi^{\dagger}\\ &= \varphi^{\dagger i}+i\theta^a(T_R^a)_j^{\ \ i}\varphi^{\dagger j}\tag{19}\end{align}

のように変換する.最終行で(18)を用いた.(17)と(19)式を用いると\(\varphi^{\dagger i}\varphi_i\)は不変であるとわかる.

上付き添字1つと下付き添字1つのクロネッカーのデルタを考えよう.これは次のように変換する:

\begin{align} \delta_i^{\ \ j}&\to (1+i\theta^aT_R^a)_i^{\ \ k}(1+i\theta^aT_{\overline{R}}^a)^j_{\ \ l}\delta_k^{\ \ l}\\ &=(1+i\theta^aT_R^a)_i^{\ \ k}\delta_k^{\ \ l}(1-i\theta^aT_R^a)_l^{\ \ j}\\ &=\delta_i^{\ \ j}+O(\theta^2)\tag{20}\end{align}

(20)式は\(\delta_i^{\ \ j}\)は群の不変テンソルであることを示している.この\(R\)表現と\(\overline{R}\)表現の添字を一つずつ持つような不変テンソルの存在は\(R\)と\(\overline{R}\)の直積表現の中に singlet 表現 1 (\(T_1^a=0\))があることを示している.つまり,

$$R\otimes \overline{R}=1\oplus \dots\tag{21}$$

ということである.

次に生成子行列\((T_R^a)_i^{\ \ j}\)を考えよう.ここで,\(R\)の添字が1つ,\({\overline{R}}\)の添字が1つと随伴表現\(A\)の添字が1つである.これもまた,不変テンソルである.これを見るために微小変換すると

\begin{align} (T_R^b)_i^{\ \ j}&\to (1-i\theta^aT_R^a)_i^{\ \ k}(1-i\theta^aT_{\overline{R}}^a)^j_{\ \ l}(1-i\theta^aT_A^a)^{bc}(T_R^c)_k^{\ \ l}\\ &=(T_R^b)_i^{\ \ j}-i\theta^a[(T_R^a)_i^{\ \ k}(T_R^b)_k^{\ \ j}+(T_{\overline{R}}^a)^j_{\ \ l}(T_R^b)_i^{\ \ l}+(T_A^a)^{bc}(T_R^c)_i^{\ \ j}]\\ &\hspace{10mm}+O(\theta^2)\tag{22}\end{align}

である.生成子行列が不変テンソルであるためにはこの大括弧の中身は\(0\)であるべきである.さらに(3),(18)式使うと

\begin{align} [\dots]&= (T_R^a)_i^{\ \ k}(T_R^b)_k^{\ \ j}-(T_R^a)_l^{\ \ j}(T_R^b)_i^{\ \ l}-if^{abc}(T_R^c)_i^{\ \ j}\\ &=(T_R^aT_R^b)_i^{\ \ j}-(T_R^bT_R^a)_i^{\ \ j}-if^{abc}(T_R^c)_i^{\ \ j}\\ &=0\tag{23}\end{align}

となる.ここで,最終行では交換関係を用いた.\((T_R^a)_i^{\ \ j}\)が不変テンソルであるという事実より,

$$R\otimes \overline{R}\otimes A=1\oplus \dots\tag{24}$$

である.(24)式の両辺に\(A\)を掛け,\(A\otimes A=1\oplus \dots\)を用いると(21)式と合わせて,

$$R\otimes \overline{R}=1\oplus A\oplus \dots \tag{25}$$

を得る.つまり,ある表現とその複素共役の表現の直積は自明な表現と随伴表現を含むわけである.

具体的には\(SU(N)\)の基本表現\(N\)を考えると

$$N\otimes \overline{N}=1\oplus A\tag{26}$$

となることがわかる.ここで,右辺にこれ以上の表現がないことは次元からわかる.\(D(1)=1\),\(D(N)=D(\overline{N})=N\)である.さらに24章より

$$D(A)=\frac{N(N-1)}{2}\times 2+(N-1)=N^2-1$$

である.よって,(26)式の両辺で次元が一致する.

実表現\(R\)のときを考えよう.この場合は\(\overline{R}=R\)であるから(25)式は

$$R\otimes R=1\oplus A\oplus \dots\tag{27}$$

となる.右辺の singlet は \(R\) 添字を二つ持つ不変テンソルの存在を意味している.それはクロネッカーのデルタ\(\delta_{ij}\)である.不変であることを見るために微小変換を考えると

\begin{align} \delta_{ij}&\to (1-i\theta^aT_R^a)_i^{\ \ k}(1-i\theta^aT_R^a)_j^{\ \ l}\delta_{kl}\\ &=\delta_{ij}-i\theta^a[(T_R^a)_{ij}+(T_R^a)_{ji}]+O(\theta^2)\tag{28}\end{align}

である.ここで大括弧の中身は(18)式から\(0\)になるとわかる.よって,確かに\(\delta_{ij}\)は不変テンソルである.

次に\(SO(N)\)の基本表現\(N\)を考えよう. (生成子がエルミートな反対称行列なので) この表現は実である.そして

$$N\otimes N=1_S\oplus A_A\oplus S_S\tag{29}$$

である.ここで添字\(A,S\)はそれぞれ基本表現の添字について反対称,対称部分を表している.これも次元をみることで確認できる.\(D(1)=1,D(N)=N\)と24章で示した\(D(A)=\frac{1}{2}N(N-1)\)を用いる.さらにトレースレスの対称性は\(D(S)=\frac{1}{2}N(N+1)-1\)の独立成分を持つので,(29)式の右辺で次元は満たされている.

次に擬実表現\(R\)を考えよう.\(R\)の複素共役の表現は\(R\)自身なので(27)式はそのまま成り立つ.しかし,\(\delta_{ij}\)は不変テンソルではない.それは(28)式の大括弧は\(R\)が擬実では\(0\)にならないからである.その代わり,反対称部分に singlet が現れる.つまり,二つの\(R\)添字に対して反対称な不変テンソルが存在する.

今,興味がある例の一つは\(SU(2)\)の基本表現である.一般の\(SU(N)\)では\(N\)個の基本表現の添字を持つ完全反対称なLevi-Civita の\(\epsilon\)が不変テンソルである.これは\(SU(N)\)変換の下で

\begin{align} \epsilon_{i_1\dots i_N}&\to U_{i_1}^{j_1}\dots U_{i_N}^{j_N}\epsilon_{j_1\dots j_N}\\ &=(\det U)\epsilon_{i_1\dots i_N}\tag{30}\end{align}

と変換する.ここで,\(U\)は\(SU(N)\)の元なので\(\det U=1\)である.よって,(30)式より,Levi-Civita symbol は不変テンソルである.同様に考えて,\(N\)個の反基本表現の添字を持つ完全反対称テンソル\(\epsilon^{i_1\dots i_N}\)が存在する.\(SU(2)\)の場合は Levi-Civita symbol は\(\epsilon_{ij}=-\epsilon_{ji}\)であり,

$$2\otimes 2=1_A\oplus 3_S\tag{31}$$

の singlet に対応する.ここで,\(3\)は随伴表現である.

さらに\(\epsilon^{ij},\epsilon_{ij}\)も用いて\(SU(2)\)の添字を上げ下げすることができる.これにより,基本表現\(2\)とその複素共役\(\overline{2}\)に区別はない.つまり,\(2\)表現の場\(\varphi_i\)は\(\varphi^i=\epsilon^{ij}\varphi_j\)により,\(\overline{2}\)の表現に移り変わる.

構造定数\(f^{abc}\)は他の不変テンソルである.それは任意の表現で生成子行列が不変であり,\((T_A^a)^{bc}=-if^{abc}\)と書けることから明らかである.あるいは表現\(R\)の生成子行列が与えられれば

$$T(R)f^{abc}=-i{\mathrm{Tr}}(T_R^a[T_R^b,T_R^c])\tag{32}$$

と書くことができる.ここから,右辺が不変であることから\(f^{abc}\)が不変であることもわかる.

(32)式で交換関係を反交換関係に変えたものを定義しよう.

$$A(R)d^{abc}\equiv \frac{1}{2}{\mathrm{Tr}}(T_R^a\{T_R^b,T_R^c\})\tag{33}$$

この右辺も生成子から作られているので不変であり,トレースのサイクリック性から\(d^{abc}\)は対称である.\(A(R)\)は表現のアノマリー係数と呼ばれる.さらに(18)式を使うと

$$A(\overline{R})=-A(R)\tag{34}$$

が分かる.よって,\(R\)が実もしくは擬実表現のとき,\(A(R)=0\)となる.また,直和と直積表現では

\begin{align} A(R_1\oplus R_2)&=A(R_1)+A(R_2)\tag{35}\\ A(R_1\otimes R_2)&=A(R_1)D(R_2)+D(R_1)A(R_2)\tag{36}\end{align}

が成り立つ.

アノマリー係数をもっとも小さい複素表現での値が1となるように規格化しよう.特に,\(N\le 3\)で\(SU(N)\)の最も小さい複素表現は基本表現であり,\(A(N)=1\)である.また,\(SU(2)\)ではすべての表現が実もしくは擬実なので\(A(R)=0\)である.

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